二人のアレックス〈前編〉

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ハバナの防波堤に立って上の写真を撮り、そばの公園に置いてあった空き瓶を撮ろうとしゃがみ込んだその時。

「あんた、さっき塀の上に立って写真撮ってたろ。警官に『あのクレイジーなヤツは誰だ?』って言われてたぞ」

と声を掛けられた。それがキューバで出会った1人目のアレックスだ。

親切に教えてくれたのか?でもそんなに危ない行動でもないよな。馴れ馴れしい奴だなと思いながらフレーミングを続けて写真を撮る私。

 

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それでもアレックスは横から話を続ける。

自分はサックス奏者で、今度の11月に日本のカワサキに演奏しに行く。訪日は今回が初めてだけど、川崎の雰囲気はどんな感じか知っているか。ついさっきも15時まですぐ近くのライブハウスで演奏していたんだ。その近くに写真映えするスポットがあるから案内するぞ。

しまいには近くにいた妻と子供にも絡み始めて、「うちにもベイビーがいるんだ」と終始笑顔で話す。

胡散臭さを感じつつも、そのスポットまで連れて行かれた我ら一家

 

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若いアーティストたちが住んでいるという一角は如何にもそんな雰囲気だった。

「レストランはまだ開いてないからそこで休憩しよう」と言いながら、ちっぽけなオープンカフェの席に腰掛け、「モヒートでいいか?アルコール抜きにもできるから」と一方的に5杯のモヒートを注文するアレックス。

 

清涼感漂うモヒートは普通に美味しかったが、問題はそのお代だ。

 

アレックスにいくらか尋ねると、「オレは知らないから店員に聞いてみな」とのたまう。ここのことよく知ってて連れてきたんじゃなかったのかよ、白々しいなと思いながら店員に尋ねたら、1杯5CUC(約550円)という驚きの高さ。ちゃんとしたレストランでも3CUCだったので、それより安いことはあっても高いはずがない。

アレックスと店員にしてやられたと思ったのもつかの間、さらに我らを驚かしたのがアレックスの次の一言だ。

 

「もう一杯いいか?」

 

呆れた私は即座に断った。それでも「もうじきレストランが開いてライブも聞けるから夕飯を食って行こう」と食らいつくアレックス。付き合いきれなくなった我ら一家は、息子の眠気を言い訳にその場を退散した。

 

帰国してから川崎市で行われるキューバ絡みのライブを調べてみたものの、アレックスらしき人物が出てくることはなかった。