タクシーを拾った。
運転手の男性は腕がよく日焼けしていた。
遠くに連なる山々の名前。
冬には氷柱が日常茶飯であること。
民家の植栽にまつわる話。
九州の豪族が流れ着いた地であること。
湧水の多さ。
遠く離れた町との関係性。
何を尋ねても「わかりません」とは言わず、
その街の歴史や文化に関わる豊富な知識を披露してくれた。
引き出しの多さに感嘆していたら、
「最初は『さぁ』ばかりだったんですよ」
そう謙虚に答えた。
タクシー運転手はワークとライフの相乗効果が得られる仕事だ。
乗客を目的地まで送り届けるだけに非ず。
その道中で乗客の興味や関心に沿った対話を重ねる。
時には助言して、時には耳を傾けて。
一見、自分の仕事とは似ても似つかないが、
実際にはよく似ている。
彼の仕事の流儀を見習いたいと思った。