潮干狩りの帰りに出会った仏のような人に、車のトラブルを救っていただいたあの日。
受けた恩恵を別の誰かに返そう。
そう心に誓っていたら、思ったよりも早くその機は訪れた。
出勤しようと駐車場を出る私の前に、近所の見知らぬ女性が立ちはだかった。
何かしでかしたか?と焦ったが、
「お急ぎのところすいません。
バッテリーが上がってしまったので助けていただけませんか?」
ということだった。
たまたまその日は午前の仕事にゆとりがあったのも何かの縁。
「どうすればいいですか?」
バッテリー切れの解決法をよく知らない私は、手際よく接続ケーブルを持ち出す女性に言われるがままに車を近づけた。
ものの5分か10分で女性のクルマのエンジンがかかった。
「お礼もできなくてすいません。助かりました!」
そう仰った女性に、私はただ「いいえ、大丈夫ですよ」と返した。
その後、車を走らせながら、ふと思い出す。
「いいんですよ。
僕もむかし車のトラブルで助けてもらったことがあるので。
もし今度、同じように困ってる方がいたら助けてあげてください」
あの決め台詞が咄嗟に出なかったことを呪った。
でも、あの女性なら困っている人がいたら、きっと助けることだろう。