浜辺に腰掛け、何やら俯いて作業するオジサマ。
釣りなら竿があるはず。
気になると放っておけない性分なので、近づいて話しかけた。
「何をされてるんですか?」
「ダンゴムシ捕ってるの」
「え?」
「ワラジムシ。釣り餌にするの」
そう言いながら、オジサマは定規ほどの薄い木の板を水平に持ち、砂を均すように薄く払いながら、地中から露わになった小さな生物を指でつまんでは箱に入れていた。
…ワラジムシで魚が釣れるのかな?
「それで何が釣れるんですか?」
「タナゴ」
…タナゴ?
家に帰ってタナゴを調べると、淡水魚で用水路や湖沼に生息と書いてある。
あれれ?としばらく混乱しているうちに思い出した。
ウミタナゴだ、オジサマの獲物は。
姿かたちがタナゴに似ているが、全くの別種。
春の時期に釣れる胎生の魚で、甲殻類も食べるようだ。
ちなみにオジサマが物色していたのは厳密にはワラジムシではなく、ヒメスナホリムシだろう。
海水浴場で噛んできて痛痒くなる、あの生物。
オキアミに近い種らしいので、たしかにウミタナゴが好みそうだ。
色々と合点がいって良かった、良かった。