故郷を巡る旅。
幼稚園の場所はうろ覚えで、しばらくレンタカーで彷徨ってしまった。
何とかたどり着いた幼稚園の建物を前にして、バラ組だったことを不意に思い出した。
幼稚園の門扉は閉められていたが、2階の一室に灯りが点いているのが見えた。
思い切って中に入り、その部屋を覗くと、女性が一人黙々とデスクに向かって仕事をされていた。
ガラス戸を何度かノックして、ようやく女性が顔を上げた。
数秒ほど驚きのあまり固まっていたが、会釈をすると出迎えてくれた。
名を名乗り、かつての園児であることを告げた。
「幻覚を見ているのかと思いました」
そうおっしゃった女性を私は存じ上げなかったが、現在の園長先生だった。
園長先生はさっそく、金庫に保管されている卒園児の名簿を持ってきてくださった。
名簿には、これまでの園児の名が連綿と記され、一人ずつ通し番号が振られていた。
入園年次を推測しながらページを捲っていくと、見覚えのある名前が次々と目に飛び込んできた。
卒園以降、思い出すことのなかった名前たちと、久方ぶりの再会を果たした。
自分の名前も確かに記されていた。
当時、好きだった女の子の名前もあった。
「30数年ぶりに来てくれた人は初めてですわ!すごーい!」
園長先生も感激してくださった。
今でも賀状のやり取りがある、当時の担任の先生のことをご存知だった。
「どうぞご自由に見ていってください」
園長先生は快くお許しいただいた。
そのおかげで、かつて過ごした教室を覗き、アルバムに映っていた遊具を確認することもできた。
勇気を出して園内に踏み入れて良かった。
心の底からそう思った。
余談だが、幼稚園の前にあった高低差のある公園を見て思い出した。
何度か夢に登場した公園が、その公園であることを。