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喫茶的なユルさ

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懐かしさ漂う喫茶店の前を通りかかる。

店のドアが開け放たれており、自然と体は中に吸い込まれる。

店内に客はおらず、マダムが一人ラジオを流しながらカウンターで新聞を読んでいる。

席についてすぐメニューがないことに気づく。

不躾に「メニューありますか」と訊ねるとマダムが言う。

「えーとね、メニューはどっかに失くしちゃった」

 

口頭でメニューを挙げてもらい、結局コーヒーを頼む。

 

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灰皿と一緒にコーヒーが運ばれてくる。

撮影の許しを請うとマダムは不思議そうな顔をする。

「何を撮るの?こんなオンボロの店の。時々来るのよ、カメラ持ったお客さんが。大体みんな20代から30代ぐらいの男の人」

そう言いながら、マダムは一つ奥のテーブル席について煙草を燻らす。

 

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マダムとしばし雑談していたら、年配の男性が入ってくる。

男性は常連らしく、先に会計を済ませてから席につく。

マダムとの会話を邪魔しないようにと会計に立つ。

小銭が見つからず1000円札を渡すと、「お釣りないのよ」とマダム。

数秒の沈黙の後に口を開いたのは年配の男性だ。

「いいよ。僕がおごるよ」

私は耳を疑う。会釈した程度の赤の他人のためにコーヒー代を奢ろうとは、どれだけ気前がいいのだ。

「え…」と言葉にならない声を漏らした。

「あ、小銭あったわ」とタイミングよくマダム。

 

「どちらのご出身ですか?」と穏やかな口調で年配の男性が尋ねる。

私は男性と話を続けるために先ほどまで座っていた席にもう一度腰を下ろした。

 

終始漂う、このゆるさは何だ。

これが喫茶店の持つ底力なのだろうか。